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僕を嫌いになれば良かった。 彼女よりも姫を信じた僕を。 彼女の気持ちを無視し酷い行為をした僕を。 最低だと罵り、嫌い、いっその事忘れてくれれば良いと思った。 そうする事が二人にとって何よりも幸せな道だと思ったんだ。 「さっさと出て行け!」 「ッ…!」 投げるように突き飛ばされ、抵抗する間もなく地へと倒れる。 あちこち掠ったと言うのに、肉体的な痛みはほとんど感じない。 掠り傷程度大したことはない…ジェイの言葉の方がよっぽど痛かった。 半身を起こし振り向けば、目の前には閉まった門。 大きく分厚い門は、まるで私と彼の間に出来た心の壁のようだった。 「ジェイ…」 名前を呼んでも返事はない。 例え隣にいても私の声に反応してくれる事はないだろう。 嫌だ…もうあんなジェイとは会いたくない。 私は逃げるように足を動かし、行先も決めぬまま走り出した。 無意識の内に足を動かし辿り着いた場所は灯台の街ウェルテス。 ジェイと出会った、あの街。 「…」 帰る場所等ないと思っていたのに、体は嫌でもここを求めている。 ジェイとの想い出が溢れる、温かいこの街を。 「?」 誰かが私の名を呼ぶ。 振り返れば見慣れた仲間の姿が目に入った。 「!」 私の名を呼んだ青年、セネルは自らが抱えていた買い物袋を手放し ぼうっと立ち尽くす私の肩に手を掛ける。 「セネル…」 「どうしたんだよ、その格好…!!」 言われて初めて気が付いた。 服には錆が付き酷く汚れていて、履いていたブーツも片方ない。 いつからこんな格好をしていたんだろう…きっと、あの国を出た後からずっとだ。 「何があったんだ?言ってみろ」 「何でもないよ…ただ、ちょっと」 「…ジェイと何かあったのか?」 セネルの言葉を聞き、無意識に体が反応する。 小刻みに震え始めた私を見て、セネルは眉を顰めた。 嫌だ。 今その名前を聞きたくない。 「…離して」 「嫌だ」 「セネルには関係ないよ!」 「関係ある。大事な仲間の事だ」 逃げようとする私の腕を掴む彼の手の締め付けは、例の手錠を思い出す。 あの牢屋での出来事が絵に描ける程鮮明に蘇った。 「喧嘩でもしたのか?」 首を振る。 「なら、誰かに何か言われたのか?」 「…」 「…何で泣いてるんだよ…」 嫌だ、と首を振れば涙が飛び散る。 忘れようと必死なればなる程、私の心の中は最後に見た彼の笑顔で埋め尽くされた。 「私、が…」 「…うん」 「わたしがッ…!」 「ジェイの中から、いなくなった…!」 すぐに忘れられる訳がなかった。 私の心の中では未だこんなにも強く根付いているのに。 止まらない涙を必死に拭う私を見てセネルは何を想ったのだろう。 その手を強く引き、私の体を自らの胸に納めると、母親のように髪を撫でる。 優しく丁寧に動くその手の動きに、私は嗚咽を堪える事が出来なくなった。 「…俺の知っているは、そう簡単に欲しいものを諦めたりしない」 「泣き終わったらもう一度考えよう」 「…ジェイを取り戻す為に」 私はセネルの優しさに甘え、溜まっていた感情全てを吐き出した。 「ジェイ…」 「…」 「ジェイッ…!」 嗚咽に紛れ溢れるのは彼の名ばかり。 呼んでも返事がないのは分かっているのに。 「…セネル、なんだけどな」 何度も名前を呼んだ。 もし帰ってきてくれたら、また手を繋いでくれたら、優しく抱き締めてくれたら。 そんな事ばかり考えているから、 セネルの漏らした本音に気付く事も出来なかったのだ。 Next→ 06/01/15 修正:06/10/04 再修正:14/02/02 |