泣き止む頃にはすっかり夜も更け、ウェルテスの街は街灯に包まれていた。

「まだ一人にするのは不安だから」、とセネルは私の手を引き自らの家へと向かう。
私はセネルの優しさに甘え、今までの経緯を全て吐き出した。





「…そんな事があったのか」





セネルは顎に手を当て目を伏せる。
何を考えているのだろうか。
問おうと口を開いたとほぼ同時、セネルは私へと質問を投げる。





はどうしたい?」
「、え」
「ジェイの事、このまま放って置いて良いのか?」





良い訳がない…本当は今すぐにでも駆け出したいくらいだ。

だけど、もうジェイに否定されるのは嫌だ。
彼の冷たい視線を思い出すだけで体が震える。
私はいつからこんなに弱くなってしまったのだろう。
ジェイを好きだと想う前は、一人で何でも出来ていたはずなのに。





「約束、したんだろ?」





黙る私にセネルは言う。
私は彼の言葉にハッと息を呑み顔を上げた。





「力ずくで連れて行くつもりならやってみなよ!」

「その時は、私が必ずジェイを迎えに行く!!」





あの時の私は怖気づく事なく、胸を張ってジェイを守ると言ったんだ。
…今の私とは違い、とても強かった。





「ジェイはそれを待っているんじゃないか?」
「ッでも、ジェイは約束を守ってくれなかった…!」





私がジェイを守ると言ったあの場所で、ジェイも私に言ったのだ。
「何処にも行かない」、と「誰よりも私を愛している」、と。





「だからっても約束を破るのか?」
「ッ…」
「ジェイの事が好きなら、最後まで信じてやるんだ」





セネルの言葉を聞き、忘れかけていた事を思い出す。

そうだ…私は見返りが欲しくてジェイを好きになった訳じゃない。
いつだって私がしたいと願う事をしてきただけ。

どうして泣いていたんだろう。
どうして止まってしまったんだろう。
どうして一瞬でも、ジェイから心を離してしまったんだろう。





「もうどうすれば良いか、分かるよな?」





勝気な笑みを見せる青年に私は大きく頷き返す。
彼と同じ、自信に満ち溢れた笑みを浮かべて。





「迎えに行く」





誰に言われたからでもない。
私がジェイに会いたいからだ。
例えジェイに拒絶されたとしても、私が望んでいるのはジェイだけなのだから。





「それこそ俺の知っているだよ」
「ありがと!」





お礼を言い、暗くなった夜の街へと飛び出す。
追い風すら味方に出来る、そう思える程回復したのはセネルのお陰だ。





「お邪魔しました!」
「辛くなったらまた来いよ」
「ううん、大丈夫!…ジェイが待ってるから」
「…そうか」





「次は二人で来るからね!」、そう言って私は港へと走り出した。

まだ夜だ、船が出港するには時間がある。
やる事はたくさんある。
武器の手入れ、道具の整頓…それから、人を傷付ける覚悟。

無駄な時間なんて一分一秒もない。
今度こそ私の気持ちを伝えるんだ。

一語一句間違える事なく、誤解もないよう、
初めてジェイに好きだと伝えたあの日と同じように、しっかりと。















「ジェイ」





広い廊下で月を見る僕を王が呼ぶ。





「…何か?」





未だこの人が実の父親だと言う事が信じられない。
本当の家族と言うのは、こんなにも冷たいものだったのか。





「明日だ」
「…」
「明日、お前の結婚を祝う式を挙げる」





覚悟はしていた。
だけど思ったように返事をする事が出来なかった。
黙る僕を見て王は眉を顰めると、追撃するよう言葉を続ける。





「今まで自由にしてきたんだ…今は王子の為すべき事をしろ」





そして気付いたのだ。
血が繋がっていようといまいと、本当の僕を見てくれたのは遺跡船の仲間達だけだと。
本当の父親であろうと、子を利用する気持ちは僕を育てた男…お師匠様と何も変わらない。





「約束を忘れた訳ではあるまいな」
「…」
「…言いつけを守れないのであれば、今から村娘を処刑にしても良いのだぞ」





噴水広場で初めてこの男と対面した日。
が気絶していた僅かな時間で、僕はとある約束をした。

国を継ぐ代わりに、彼女の命だけは見逃してくれと。

あの場であの数の兵を相手にするのは不利であったし
遺跡船の人間に危害を加える可能性もあった。

僕の選択に間違いはない…そう思っていたはずなのに
今更後悔の念ばかりが渦巻いてしまう。





「…分かりました」





今も昔も変わらない。
僕は人を傷付ける事でしか人を守る事が出来ないのだ。

あれ程出来た人だ…きっと僕なんかよりももっと良い男性に出会えるだろう。
それで彼女が幸せになるのなら、泣いているよりはずっと良い。
愛している…その気持ちだけは他の女性と結ばれたとしても変わらない。

この先、何があっても…いつまでも。










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06/01/16
修正:06/10/05
再修正:14/02/02